DDoS攻撃対策の費用はどう決まる?お金はどこに使われているのか
帯域幅、洗浄能力、ノードから運用保守コストまで、DDoS対策費用の実際の内訳を詳細に解説。サイト運営者がどこに費用がかかるのか、どのコストが必須でどの部分が「見せかけ」なのかを見極め、不当な見積もりに騙されないようにするためのガイド。
DDoS攻撃対策サービスを初めて契約する時、多くのサイト運営者は同じ疑問を抱きます:
なぜ、同じ「攻撃を防ぐ」ように見えるサービスなのに、価格が数十倍、場合によっては数百倍も違うのか?
月額数百円のプランもあれば、年間数百万円のプランもあります。
「攻撃を受けても気づかない」と謳うベンダーもいれば、攻撃を受けた瞬間に追加費用を請求してくるベンダーもいます。
DDoS対策の見積もりは、往々にしてわかりづらいものです。
この記事では、ベンダーの立場ではなく、お金を支払うサイト運営者の視点から、DDoS対策費用の真の内訳を、層を剥がすように解説していきます。
読了後、あなたは少なくとも次の3点を理解できるでしょう:
- 防御費用が実際にどこに使われているか。
- どの費用が「必須」で、どれが「誇張表現」なのか。
- 自社のビジネスに、どの程度の費用をかけるのが妥当なのか。
1. 結論から:DDoS対策は「保険」ではなく「リソースの予約」
多くの人は無意識に、DDoS対策を次のように考えがちです:
料金を支払う → 有事の際はベンダーが守ってくれる。
しかし現実はこうです:
DDoS対策は、本質的に、事前に「攻撃に耐えるリソース」を確保しておくことです。
このリソースには以下が含まれます:
- 帯域幅 (バンドワイズ)
- ネットワークノード (拠点)
- スクラビング (洗浄) 能力
- トラフィック制御システム
- 運用保守 (オペレーション) コスト
より多くの対策を購入するほど、プロバイダーはあなたのためにより多くのリソースを確保する必要があり、価格は当然高くなります。 
2. 費用の最大の要素:帯域幅コスト
これは最も理解しやすい一方で、最も誤解されやすい部分でもあります。
1️⃣ なぜ「防御能力」は常にG(ギガ)やT(テラ)で表示されるのか?
例:
- 100Gbps 防御
- 300Gbps 防御
- 1Tbps 防御
理由は単純です:
DDoS攻撃が直接的にもたらす被害は、帯域幅の枯渇(飽和)です。
しかし、ここに非常に重要なポイントがあります:
👉 あなたが購入しているのは「攻撃トラフィック」ではなく、「そのトラフィックを吸収・処理する能力」です。
2️⃣ 帯域幅への費用はどこに使われる?
帯域幅コストには以下が含まれます:
- 上流ISP(インターネットサービスプロバイダー)との接続・トランジット料金
- データセンターの出口(ポート)コスト
- ピーク時や予期せぬ事態に備えた冗長容量の確保
- 大規模攻撃時の余剰(ヘッドルーム)帯域幅
プロバイダーは、あなたが攻撃を受けているかどうかにかかわらず、この容量を前もって確保するコストを負担しています。
つまり:
防御費用の根底にあるのは、「長期的に遊休状態のリソース」を維持するコストです。
3️⃣ 同じ「100G防御」でも価格が大きく異なるのはなぜ?
それは、以下の違いによることが多いからです:
- 共有帯域幅:他の顧客が攻撃を受けると、あなたの利用可能帯域幅が制限される可能性があります。
- 専用帯域幅:あなた専用に確保された帯域幅です。
ここで多くの顧客が損をします:
仕様書には100Gと書いてあっても、実際の攻撃時には30Gしか使えない。
3. 第2の主要コスト:スクラビング能力(真の中核)
帯域幅が「貯水池」なら、スクラビング能力は「浄水施設」です。
1️⃣ スクラビング能力とは?
簡単に言うと、以下の能力です:
- 悪意のあるトラフィックを正確に識別できるか
- それを素早く破棄できるか
- 正当なユーザーをブロックせずに済むか(誤検知の回避)
これには以下が関わってきます:
- 専用ハードウェア
- 高度なアルゴリズム
- トラフィック分析とルールセット
- 実戦での攻撃対応経験
2️⃣ なぜスクラビングは高価なのか?
スクラビングは「ソフトウェアのスイッチ」ではありません。以下が必要です:
- 目的に特化したアプライアンス/サーバー
- 高性能な計算リソース
- 継続的なルールとシグネチャの更新
- 膨大な実戦的な攻撃パターンのデータベース
平たく言えば:
効果的なスクラビング能力は、何度も攻撃を受け、そこから学ぶことで築き上げられるものです。
3️⃣ 低価格の「格安」対策では、何が削られる?
たいていの場合、スクラビング能力が削られます:
- 基本的で静的なフィルタリングルール
- 複雑なCC攻撃(アプリケーション層攻撃)への検知精度の低さ
- 人的介入の遅さ、または不在
- 誤検知(正当なユーザーをブロック)の確率の高さ
結果は?
攻撃は止められたかもしれないが、正当なトラフィックも止まってしまう。

4. 第3の主要コスト:ノード数とその分散(特にDDoS対策CDNの場合)
DDoS対策CDNを購入する場合、費用構造はより複雑になります。
1️⃣ なぜノードは高価なのか?
グローバルな拠点(PoP)1つにつき、以下のコストがかかります:
- データセンターのスペース
- 地域ごとの帯域幅
- ハードウェア(サーバー、ルーター、スクラバー)
- 現地での運用保守
ノードは単なるリスト上の項目ではなく、実際の資金を投じて構築された物理的なインフラストラクチャです。
2️⃣ ノード数が多いほど防御力が高いのはなぜ?
ノードが多いと以下が可能になるからです:
- 攻撃トラフィックを地理的に分散させる
- 単一点への負荷を軽減する
- 攻撃が一箇所に集中するのを困難にする
これが、単純な高防御IPよりもDDoS対策CDNの方が高価である根本的な理由の一つです。
3️⃣ ノードに対して、実際には何にお金を払っている?
率直に言うと:
「他の誰も使っていない時に、あなたが使える」権利に対してお金を払っているのです。
5. トラフィック制御、エニーキャスト、BGP:その費用は価値がある?
多くのプランは以下の機能を謳っています:
- エニーキャストルーティング
- マルチホームBGPネットワーク
- インテリジェントなトラフィックステアリング
1️⃣ これらは何を解決する?
- 不安定なネットワーク経路
- 単一のISP回線が圧倒されること
- 地域的な混雑や障害
これらの主な価値は、単なる防御力ではなく、安定性と信頼性の向上にあります。
2️⃣ なぜ常に個別の料金項目にならないのか?
信頼できるプロバイダーにとっては:
- これらは中核的なネットワークインフラの一部だからです。
- そのコストは全体的なサービス価格に織り込まれているからです。
これらの機能に対して追加料金を請求するベンダーは、多くの場合、マーケティング目的で項目を分けているだけです。
6. 人的運用と緊急対応(最も見落とされがちなコスト)
この部分は、見積もりや提案書で曖昧にされがちです。
1️⃣ 防御は完全に自動化されている?
現実は混在しています:
- 大規模なボリュメトリック攻撃:ほぼ自動化。
- 複雑なマルチベクター攻撃:半自動。監視と調整が必要。
- 標的型の高度な攻撃:専門家による人的分析と手動介入が必要。
専門知識こそが最も高価なリソースです。
2️⃣ 「24/7サポート」が高価な理由は?
それは以下を意味します:
- 24時間体制で稼働するセキュリティオペレーションセンター(SOC)の人員配置
- フィルターやルールを即座に調整できる待機エンジニアの確保
- 危機的状況において最終的な責任を負う担当者の存在
安価な防御は通常、以下を意味します:
誰も監視していない。あなたは独りぼっちだ。
7. なぜ一部のプロバイダーは「攻撃時に追加料金」を請求する?
これは顧客にとって大きな不満点です。
その理由は現実的なものです:
- 大規模攻撃は、リアルタイムで課金対象となるリソース(追加帯域幅など)を消費します。
- 攻撃が契約プランの上限を超えた場合、プロバイダーは追加コストを負担します。
重要な問題は、必ずしも「超過料金」そのものではなく、むしろ以下です:
超過時のルールと費用が、事前にはっきりと説明されていたか?
8. いくら払うべき?ビジネスタイプ別の実用的ガイド
以下に、大まかな価格帯の参考を示します(絶対的なものではありません):
✔ 基本的なブログ / コンテンツサイト
👉 月額 5,000円 〜 50,000円程度
✔ 中小企業のコーポレートサイト
👉 月額 50,000円 〜 200,000円程度
✔ Eコマース / SaaS / API駆動型ビジネス
👉 月額 200,000円 〜 1,000,000円以上
✔ 常に標的にされる、ハイリスク、またはグレーゾーンのビジネス
👉 月額 1,000,000円以上が目安
もしプロバイダーが以下のように言ったら:
「月額数千円で、どんな攻撃にも耐えられますよ」
疑ってかかるべきです。
9. どの費用が「疑わしい」ものか?
顧客の視点から、以下の危険信号には注意してください:
- 「無制限防御」(ネットワーキングの世界にそんなものはありません)
- 攻撃時の「従量課金なし」(細かい条件を確認しましょう)
- 「100% AI駆動、誤検知ゼロ」(不可能な約束です)
- 「理論上のピーク容量」(保証された確約容量との違い)
信頼できるプロバイダーは、明確な契約上の上限とルールを提示します。
10. 最後に、現実的なまとめ
一つだけ覚えておいてください:
DDoS対策に払うお金は、本質的に、攻撃があなたに届く前に「あなたの代わりに攻撃を受ける」サービスへの対価です。
安価なサービスを選べば選ぶほど、実際の攻撃時に以下を発見する可能性が高くなります:
- リソース不足
- 効果のない緩和策
- 頼れるサポートの不在
必ずしもプロバイダーが「悪い」のではなく、あなたが実際に必要なリソースと専門知識に対して十分な対価を払っていなかっただけなのです。
FAQ (よくある質問):
Q1:高価なDDoS対策は常に必要?
必ずしもそうではありません。ただし、対策レベルはビジネスの価値と収益性と一致させるべきです。ダウンタイムは非常に高くつきます。
Q2:従量課金制は公平?
場合によっては公平です。ただし、攻撃発生前に、正確な閾値と料率を理解しておくことが必須です。
Q3:DDoS対策CDNが高防御IPより高価な理由は?
単一の強化されたIPアドレスではなく、世界中に分散したスクラビングノードのネットワーク、優れたパフォーマンス、より洗練されたトラフィックルーティングに対してお金を払っているからです。
Q4:最初の攻撃を受けてからアップグレードしてもいい?
技術的には可能です。しかし、その最初の攻撃時、アップグレードが完了するまでの間に、深刻なビジネス中断と収益損失という代償を支払うことになります。
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